新垣シオンと葉月ことははいつものようにつるんでいた。方や大人しそうな長身の女性。方や小柄で童顔の元気そうな少女。この二人が同じ年齢というのもおかしな話だが、二人が大学生というのはもっとおかしな物である。
 大学生というのは授業を好きに取れる。その代わり必須単位多め。ただし、数さえ満たせば幾らでも休みが作れる。当然自主休講なんてのも出席日数が足りるのであれば問題ない。大学生とはそんな存在だ。
 休みを増やせばバイトに当てたり、イベントに参加したり、色々出来るのだが、生憎授業が多い日はそういうわけに行かない。シオンとことはは専攻科目は違えど同じ学科であるために授業は大体似たような物を取ってる。そのおかげで今は休みの後に次の授業という感じである。空き時間であれば自由に使える情報処理室で隣同士だというのに、チャットコーナーを間借りして会話しているのは又別の話だ。
 ことははパソコンで複数のウインドウを開いて方やレポート、方やお遊びと色々やっていたのだが、シオンは集中してレポートを書いていた。が・・・ふとパソコンから目を離し、廊下に向けるとある男の姿が歩いているのを見た。
「ねえ、ことは、あの先生が歩いてるよ?この時間先生は関係ないはずだよね。」
「あの先生、情報処理の講師と出来てるからいててもおかしくないんだけど、今日は出勤日じゃなかったから違うし。」
 ことははシオンの方を向かずにぶつぶつ呟きながらパソコンに向かう。だが、我に返るとことはは慌ててパソコンの電源を落とし、にんまりと笑った。
「っていうか、ここ一番はじっこの教室だし。廊下をひたすら歩いたなんて…おかしいから追跡するか。」
 立ち上がって情報処理室のドアに向かい、外に出ようとすることは。それを見てシオンは溜息を吐きながらデータの保存を行い、自分のパソコンの電源を落とす。
「また、始まったかあんたの病気。何時か絶対に痛い目見るよ。」
 シオンの忠告を無視して男が向かったであろう方向に歩くことは。このシオンの言葉を実感するのはそう遠くない事であった。

 眼鏡をかけ、口ひげを生やした中年男性の後ろを離れながら追いかけることは。その横にピッタリとつくシオン。廊下から非常階段の扉を開き、非常階段を下りていくことはとシオン。ところがことはとシオンは奇妙な事に気付く。情報処理室は校舎の6階にあった、しかし中年男はただひたすらに階段を下り、明らかに6階より下に向かっているのだ。シオンはことはの手を引っ張り首を振って引き返そうとするが、ことはにその気はない。この中年男の事になるとことはが引き返さないのは中年男の正体と絡んでいるんだが…それは又後の話である。
 かくしてことはとシオンは本来あるべくもない地下に辿り着いていた。行き止まりにあった鉄製の殺風景なドアを開くと、そこは巨大な格納庫だったから、シオンとことははただ驚くしかなかったのだ。大阪ドームと同じぐらいの巨大な広い場所に、ビル5回分くらいの高さでそびえ立つ4体の黒い巨大人型装甲兵器と1体の赤い装甲兵器。機神と呼ぶに相応しい物があるその場所はSFアニメが目の前に出現したような、そんな状態だった。
「ここ、なんなの?」
「田原本先生って面白いヒトだと思ってたけどここまで面白いとは。」
 呆然とするシオンと、楽しそうに興奮していることは。そして赤い機神の前にことはは走り出した。
「ちょっと待ちなさいよ。先生が何処にもいないのおかしいと思わないの?」
 シオンの叫びにことはは立ち止まる。というよりも目の前にことはより20cmは背が高い中年男田原本博司が立ちふさがっていたからことはは止まらざるをえなかったのだ。
「ああ、やっぱり付いてきてましたか。新垣さんまで一緒とは考えてませんでしたが、手間が省けて良い。」
 博司の表情は大学の授業で見せるいつもの笑顔ではなく、鋭い物を含んでいた。
「ちょうど二人協力者が欲しかった所なんです。」
 博司が指を鳴らすとシオンの周りを30代ぐらいの男が3人と女が一人、博司と同じような分野の授業を担当する講師達が取り囲んだ。
「僕の世界征服の協力者に…ね。」
 ことははにんまりとした笑みを、シオンは落胆の表情を見せながら両手を上げて博司の言葉に従うしかなかった。

 その頃枚方市駅の上空を青い機神が飛び、渡来ホツマがその光景をみつめていた。何も気付かない周囲の人々の様子に首をかしげ、もう一度空を見上げて機神の姿を確認したところでホツマは両手に持った買い物袋を落としていた。
 機神が向かっている河川敷方向。ホツマは落とした買い物袋を拾うと同じ方向に足を向けた。
 自分の退屈さを紛らわすために、ホツマは自ら面倒事の元に向かっていった。

続く

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