4体の黒い機神に囲まれた青い機神。ホツマは中年男の後ろで呆然としながら座っていた。全てが夢ならば…そんな事は一瞬で却下される現状が目の前に広がっている。
「飛ぶぞ、しっかり踏ん張ってろ!」
 中年男が前の座席でコンソールとレバーを操作した瞬間、青い機神は宙返りし4体の機神の輪から離脱しようとする。それを阻止しようとする4体の機神を牽制すべく、虚空より剣を構築して振り回す事で距離を作り出す。
 ホツマの目の前で起きている事全てが現実からかけ離れていた。中年男は有り得ない複雑な操作によって機神をとんでもない形で振り回していた。当然体にかかる圧力や重力は普通ではないが、ホツマは常軌を逸した事態に脳内が麻痺しているせいだと自動的に遮断していた。実際には重力制御装置が内蔵されているのか、はたまた、機神と操縦席内部は繋がっているようで実際には異なる“位相”にあるのか、外部から伝わる振動は非常に緩やかな物であったが。
「貴様らの好き勝手にはさせないからな!」
 剣を構える機神、叫ぶ中年男。その一刻も経たない程に機神は剣を振るい4体の機神の眼前に迫った。

 青の機神と黒い4体の機神がぶつかり合うその光景をことはとシオンは背後より博司の視線を感じながら眺めていた。
 そこは赤い機神の操縦席。博司の指示により無理矢理乗り込む羽目になったシオンとことはが仕方なしに得た指定席でもあった。
3人乗りの赤い機神の前方座席は、シオンとことはが予め乗る事が予測されたかのように後部の席より小さめで、二人の体格に合わせたような感じであった。
「まさか、単位だけやなくて学籍まで楯に取ってくるなんて思いもせーへんかったわ。」
「だって、かの有名な田原本先生ですからね。だてに将軍様なんてあだ名は付けられてないよ。横暴さと天上天下唯我独尊さは学内一ですからね。」
 簡単に無茶苦茶を言うことは。その言葉にことはの座る席づたいに蹴りが入るのを感じたが。その直後に博司が声をかみ殺しながら足を抱えてるのを見て見ぬふりをするのが、シオンとことはの嗜みというのかなんというのか。
「戯れ言はええ、そろそろ私の愛する弟子達を助けにいかねばならんからな。君たちの力も試したいところだしな。」
「勘弁して欲しい話や。」
「同感です。なんでリアルロボット大戦しないといけないんだか。よりによってあの場所で。」
 ことはとシオンは溜息を吐きながら、モニターを見ていた。だが、その戦闘画面が博司のコンソール操作によってモニターの片隅に縮小されると、目の前には今いる格納庫が広がった。
「さあ、特別講義の開始です。」
 黒い機神が格納用のアームから解放され、機神の前が青白く光る。青白い光は、ゆっくりと広がると薄く光りながら円形の巨大な陣を形取る。所謂魔法陣とか言うものである。どっかの理系の人間がガンダム系のロボットを実際に稼働した場合、熱量の問題を初めとした様々な問題にぶつかって動く事が出来ないと表現していた。だが、モニターでの青い機神が剣をどこからともなく出現させていた事や、このゲートや本来あるはずのない巨大地下格納庫が出現している事を考えると、この機神の存在自体に人間の科学力を無視したような異常な状態を証明させているわけだが…そんな事は今のシオンやことはにわかるはずもない。
 博司の操作により黒い機神がゆっくりと前進する。無骨な機械的で人工的な印象を受ける鋭い形状の機体は音もなく滑るような形で前進している事に違和感を抱くシオン。見ている物と常識のちぐはぐさに頭を抱えようとするが、ことはから無言の諦めを示されてシオンも泰然とする羽目になった。黒い機神が前方の巨大な魔法陣に触れると画面がゆっくりと青い光りに包まれ、数秒後にことはとシオンは愕然とした。

 そこは淀川の河川敷、下方には青い機神と黒い4体の機神が戦っていたのだ。

続く

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