河内の街にはとんでもない連中がいた。男の話は簡単に言えばそうだった。何かを突き詰めて壁にぶち当たった時、そこで満足したり諦めたり、結局乗り越えようとしてごまかして生きるようなのが“人としての限界にぶち当たった”時のやりかたなのは一般的だそうだ。普通は人としての限界にぶち当たる事は無いのだが、ごくごくまれにその個人の限界のみならず、人としての限界に接近してしまう人がいるそうだ。まあ、その時点で一種の“達人”であり、“スペシャリスト”として名をはせるのだが、どうしても“それでは満足出来ない”困った人も出てくる。それが努力して人の限界を超した時に自分たちが生まれるのだと男は笑いながら言った。
 操縦席をゆっくりと見回し、ホツマは愕然とした。

「なんであの段階で撤退したの?」
「障壁が壊れたからですよ。せっかく我々の姿を見えなくしていたのに余計な邪魔が入ったら嫌ですからね。しかし、あんなに凄い力が生じるとは思わなかった。」
 大学の地下格納庫で博司はシオンとことはに背を向けて思案していた。5体の機神が安置された格納庫。幾ら何でも大阪のかつては湿地帯であった場所の地下を掘るのは無茶だろうという話なのだが、機神の存在だけで充分にうんざりである。
「思わなかったというのは?」
「あれは元々3人乗りだが、今まで私だけで動かしていた。向こうも同じような物だ。ここまで凄い物に仕上がるとは思ってなかったのでね、驚いているんですよ。」
「仕上がるって言いましたけど、この機械、一体誰が作ったんで?」
「私や。」
 博司の言葉にシオンとことはの二人は大きく口を開けて目を丸くしていた。

「僕は歌を愛するがあまりに作詞作曲を追求し過ぎてもうて、こんな馬鹿げた物を作れるようになってしもたんや。歌によって世界に干渉する力と言う奴やな。」
「歌によって世界に干渉するんですか?」
 あれから男とホツマの乗る機神は枚方のどっかの地下らしき場所に転移していた。どっかと言うのは地下なのでわからないが、男曰く枚方の何処ぞの地下やから大丈夫だという説明でホツマは無理矢理納得させているだけなのだが。
「原理というのは、再現しようとするアホも、研究するアホも存在しとらんから説明つかへんのやけど、結局僕のやってる事は歌を使って魔法みたいな現象を実現しているちゅうことや。」
 男が簡単に歌うと、ホツマと男の体は機神の外に移動していた。体は宙に浮かび、ホツマはあたふたと手を振り回して足場や物を探そうとするのだが、男に制された。
「つまりこういう事や。あの赤い機神に乗ってたおっさんは言葉の力を使ってて、若干やり方や干渉の仕方が違うけど一緒の事しとる。僕は枚方を守るために使い、あちらさんは、世界征服のために使うとるということだ。」
「その力があったから、こんな物理法則無視した物体を作れたって事なんですね。」
 男の手に引っ張られ、ゆっくりとタイル張りの床に降り立つホツマ。
「僕の名は斉藤あやつき(文月)、君は?」
「私は渡来ホツマと言います。」
 あやつきは疲れた表情で手を差し出して、ホツマの手を握る。
「こんな下らんこと巻き込んでスマンのやけど、事が終わるまで協力してもらえるかな。あれは渡来さんやないと駄目みたいや。」
 あやつきの言葉に機神を見上げたホツマに対し、機神の目が光ったように見えた。

続く

コメント