「黒服の人々…一種のパターンなんでしょうけど何処の国家機関か自由業の方なんでしょうね。」
「そっちの方がマシな予感がするのは気のせいなわけないよな、シオン。なんて言うか洒落にならん素敵な正体を明かしてくれそうですな。」
 博司とシオンとことはの三人を取り囲んだ素敵な黒服集団。黒服の男達が奇妙な球形の物体を沢山先端につけた杖を三人に向けた時、うやむやにしたかった彼らの正体というのが見えてきていた。
「いつからこの世界は異世界ファンタジーと繋がるようになったんやろね、本当に素敵な正体を明かしてくれたみたいだ。」
「ことは、私はそれを推測したくなかったのよ。で、このピンチをどう切り抜けたら良いんでしょう?」
「それは先生に一任しましょう。私たちはごく普通の女子大生ですから。」
 シオンとことはの軽口に睨みを一瞬向ける博司。だが、それも途中に博司はゆっくりと口を開く。
「誰がここに勝手に立ち入って良いと言った。関係者以外は“出てけ!!”」
 首謀者の男が博司の言葉と同時に身構えて“耐える”。だが、それ以外の黒服の男達は音もなく博司の言葉通りかき消えた。窓の外で悲鳴と何かが落ちる物音がシオンとことはの耳に届いた。ここは建物の5階。ただ、シオンとことはは状況を考えて現実を切り捨てる事にした。それに気を取られては博司の存在を受け入れきれないからだ。一人残った男が杖から青白い光球を幾多も生み出して博司に向けて放つが、博司はシオンとことはを抱え込むと廊下に転がって光球から身をかわす。
「参りましたね。貴方に喋らせる前に事を終えたかったのですが仕方ありません。貴方が喋る前に仕留めさせて頂きます。」
 シオンとことはが体勢を持ち直す間もなく立て続けに放たれる光球。ぶつかった壁や窓が吹き飛び壊れるのを見ていると光球に望んでぶつかろうとは思わないが為す術無く博司に抱え込まれて無理矢理突き飛ばされ回避させられる。ある種物扱いなのだが暴れるわけにもいかず苦い顔をしている。ただ、博司がシオンとことはを庇う以上は力を行使する事が出来ず不利なのは間違いない。博司は息を切らしながらシオンとことはを動かしているからだ。
「はあっ、次に球が来て教室側転がされたら机の下まで転がり続けて田原本先生から離れるんだよ。」
「了解。」
 いつの間にか魔法バトルになっている異常さを切り離して博司が力を行使しやすいように退避を相談するシオンとことは。これ以上博司に無理矢理突き飛ばされる状態から打破したかったというのは後付理論である。とにかくこの下らない状態から何とか脱出したいというのは二人の考えであった。そして、シオンとことはが博司から離脱した時、男の杖が戦闘力のないシオンとことはに向けられる。だが、それは博司にとって最大の隙であった。
「杖をわしに向けて“投げろ!!”」
 男の意思に反して杖が博司の元に飛んでくる。博司はその杖を手に取ると男に向かって意思を言葉としてぶつけた。
「わしの生徒に手を出す奴は許さん。そこで跪け。」
 男の体が崩れるように地に膝をつく。立ち上がり博司に抵抗しようとするが博司の言葉に抵抗することも出来ず唇をかむ。
「こりゃ大変だ。先生も異世界ファンタジーの住民だ。」
「ロボットが出た時点で怪しいとは思ってたけどね。それにしても美形の魔法使いならともかく中年髭眼鏡のおっさんはビジュアル的に終わってますね。」
「にしても言葉を現実にするなんて先生らしいというかなんと言うか。」
 シオンとことはの気をそぐような批評に博司はやりにくそうに顔を顰めるが、己が非常識な力を使っている以上はその批評を甘んじて受けるしかないようだ。
「わかったからそこの二人は黙っててくれ。後で話ならじっくりしたるから。」
 博司はズボンのポケットから携帯を取り出すとどこかにメールを送った。その2分後に博司たちを襲った男は博司の腹心である講師たちによってどこかに連れて行かれた。
「さて、授業時間になったようだな。奴との話は放課後のオフィスアワーに回すとして、君たちは教室に行きなさい。」
 普通に切り返す博司の言葉にシオンとことはは周りの惨状を指差して呟いた。
「これで普通に授業受けられる状態だと思うんですか?隣の教室が空きだったり彼らが細工してて良かったですね。」
 博司が舌打ちしながら言葉をつむいでいく。そして何事も無く博司の授業は教室で行われた。

「本当は僕やあの男以外にも異能力をもった人間は結構いるんですけどね。まあ、人と違うととんでもない方向に走るのはしゃあないってことで。」
「斉藤さんやあの言葉を使いこなすおっさん以外にも力を持った人間は居るってことですか?」
 こちらは相変わらずファーストフード店。文月はコーヒーのおかわりまで頼み、最早くつろいでいる状態である。
「まあ、こっちのことに無関心決め込んでる南河内の引きこもりはええとして、問題は東の方やな。それが出てくるとなると機神で遣り合ってる状態ではなくなるなあ。」
 開示される多くの情報にホツマはおなか一杯の状態であった。しかし、変なことに巻き込まれた以上は…どうしようもなかったりする。
「とりあえず僕らが巻き込まれている事は普通じゃないって事だな。良く判ったよ。」

 その頃、シオンとことはは退屈というよりは高校の授業のような奇妙な授業を受けているのは仕様と言う物であった。

続く

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