授業が終わった。大学でも放課後を迎えると学生の数が減り廊下も教室も寂しくなる。もっとも、自主休校を決めたり授業の組み立て方次第では授業も殆ど取らなくても良いから、学生の数が不定なのは大学の普通の事である。
 最も、教員ですら学校に殆ど残らないような大学の学科では残り続ける学生の数はかなりしれているのだが。
 殆ど真っ暗の大学の最上階の端のエリアが煌々と明かりを輝かす。田原本の研究室とその近辺だ。その研究室に博司とことはとシオンの姿があった。
「本当は授業終了後は教員の許可無く残れないはずなんだがな。」
「先生が嫌でも許可出してくれるでしょう。そもそも第三者の前で襲撃してきた魔法使い達や機神の話は出来ないと残らしたのは先生のはずですよ。」
「うちらも授業あったけど、先生の方が話さないもんだから自主休講の口実に出来なかったんだよね。」
「人をさぼりの口実にするな。」
 ことはの頭を軽くはたく博司。博司はかなり手加減しているし、ことはの痛がる様子も極端にわざとらしい。これが一種のコミュニケーションとして成立するのが田原本ゼミの特徴らしい。そんな事はどうでもいいのだが。
「一応あの首謀者は私の部下である講師達の尋問によりある組織に所属する魔法使いであることがわかった。さて、何か質問はあるか?」
「短っ!しかも全然新しい事言ってない!!」
 シオンの驚きの言葉も無視してことはは博司を真剣に見つめる。そこにへらへらしたいつもの表情はない。
「その質問というのは、そこから先を聞く覚悟が私たちにあるのかって事を踏まえた上の話ですよね。先生、端から選択肢もない状態で巻き込んでそんな事を確認するのは反則以前の問題ですよ。」
 ことはが溜息を吐いて頭を抱える。ことはにとって博司の性格と言動は以前から分かり切っている事である。あまりにも誤解を招き敵を作るそのやり方にことはは再三学生という下の身分でありながら警告を発し続けていた。何しろこの先生のおかげで学内で内紛が起きていたり、もめ事が発生したり、先生が注意さえしていれば何も起きなかったであろう事象が沢山発生しているのはこの大学内の注意事項であって・・・。無論ことはがそのような注意をし続けるのは博司と過分に接する必要性のあるゼミ学生な己の学生生活を快適な物にするための行動なのだが、それが否定すらもせず無視しながら唯々諾々と従うやる気の無い学生陣の中では宝石のように輝いてしまいやはり博司も誤解をするわけで。
 結局今のことはの状況は半ば自業自得なのだがそれに巻き込まれたシオンはたまったものではない。当然この事は博司とことはの胸中にある暗黙の了解なのだが。
「それで君にはちゃんと伝わっているのだから問題なかろう。新垣さんにもちゃんと理解させてくれているわけだし。元々君たちにはその覚悟を持ってもらわないと困るからな。確認というわけだ。」
「あの機神を動かすからですか?」
「それ以外の何があるって言うのよ。どうも田原本先生の計画は見た目以外の物を孕んでいるみたいね。」
 ことはの鋭い視線を物ともせず強い意志でもって博司が話を進める。そこには無意識の言葉の力が働いているかもしれない。
「その通りだ、あの機神はもう一つの理由でもって存在する。ことは君には説明しなくても良いが、新垣さんには説明が必要だな。」
 博司がゆっくりと立ち上がり、プロジェクター投影機の用意を行う。それを見て無言で隣室の講義室から移動式ホワイトボードを運ぶことは。阿吽の呼吸と言うよりはいつもの田原本ゼミの授業風景をことは以外のゼミ生抜き&シオンの飛び込みで再現しているような物だ。
「私たち河内の能力者は、東の魔法使いと秘密裏に戦いを続けてきた。私たちに世界を支配する意志は毛頭無かったのだが、欲望と力に取り憑かれた奴らにとっては私たちは脅威以外の何者でもなかったんだろうな。」
 ホワイトボードにパワーポイントで作成された悪夢のようなプレゼンは、たった二人の受講生を前に繰り広げられたのである。

「やはり東の護神機は間に合わないか。こいつをアレに回すしかないか。」
 ホツマと別れ例の地下格納庫で一人呟くあやつき(文月)。青い機神の背後で佇む青を基調にした白と赤のストライプが所々に織り込まれた巨大な機神がうっすらと見える。あやつきが携帯をズボンのポケットから取り出し、メールチェックを行うとそこには何故か敵対しているはずの男からのメールが届いていた。かいつまむとこんな内容だ。
『敵対勢力の襲撃を確認、時間が足りない。戦闘訓練を元に枚方の機神搭乗者の選抜を早急に頼む。』
 あやつきと宿敵と言えるようなあの男は別のサイドからも例の敵と戦おうとしている事を彼は知っていた。それ故にこれ以上の事象は自分が背負わないといけない事も理解していた。
 あの男が抱えていた二人はおそらくあの男の元でその別のサイドから戦う協力者にさせられる事は目に見えていた。あやつきが今のところ動かせる駒はホツマだけでしかないのだ。それ故にあやつきは頭を抱えていた。
 そして、その頭の抱えた状態であやつきはホツマと共に機神に乗り、博司達三人と戦う羽目になるのである。

続く

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